Quantcast
Channel: koudachinaoki
Viewing all articles
Browse latest Browse all 298

謹賀新年2016

$
0
0


 あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

 昨年は、講談社のインターネットマガジン「エイジ」で連載中(iPhone、iPadのみ。無料ダウンロード)連載中の『ゼロファイター列伝 零戦搭乗員の戦中、戦後』の単行本を講談社より上梓し、NHKエンタープライズ大島隆之氏との共著『零戦~搭乗員たちが見つめた太平洋戦争』(ATP賞大賞受賞の同名のNHK番組を書籍化)が文庫化されました。(講談社文庫)

 今春には、『零戦隊長 二〇四空飛行隊長宮野善治郎の生涯』が光人社NF文庫で文庫化の予定です。
 「フォトコン」誌の連載「一生懸命フォトグラファー列伝」は15年目に突入。「零戦搭乗員会」を正式に継承したNPO法人零戦の会も14年目に入って、会をサポートしてくれる若い仲間が増えてきました。
 




 さて、挨拶はここまで。あとは正月にちなんだエピソードを……。既出ですが。



 海軍戦闘機隊司令としてソロモン、比島方面で活躍された山本栄
大佐の戦闘日誌が私の手元にある。山本大佐は二空~五八二空、大分空、二〇一空司令などを歴任、戦後はカトリックに帰依し、二宮の教会で若い人たちのよき相談相手になるなど非常に人望の厚かった方だ。

 時々、読み返してみるが、これが滅法面白い!!。

 詳細をここで披露するわけにはいかないけれど、ちょっとだけご
紹介。
 
 この日記、戦闘についての詳細な記述はもちろんのこと、なんでもないところが妙におかしかったりする。

 たとえば、指揮官が必ず読んだ進出予定の土地のデータの一覧表
があるが、人口、気候、飲料水、風土病、衛生状態などのデータにまじって「猛獣毒蛇」という欄があり、ラバウルやツラギには鰐、大蛇、毒蛇と並んで「食人種アリ」という記述が見える。
 「少シ山ニ入ルト鰐、毒蛇、食人種、野豚等アルモ港付近ナシ」といった具合。
 いまなら人種差別と言われそうだけれど、ソロモン諸島に20世紀はじめまで食人の習慣があったのは知られているし、不時着して食われてしまう危険があるなら、「食人種」は「人」よりも「猛獣」に近かったわけだ。

 それと、興趣を覚えたのが、地図や本文中の随所に出てくる、横
文字の地名を漢字に直した「ネイビー当て字」。

 当時の航空図など見ても、これらはカタカナ表記になっているこ
とが多いから、半分面白がって頭をひねったのかも知れないけれど…。

 とりあえず、順不同だが、並べてみる。

 羅春(ラバウル)、乳振点(ニューブリテン)、武加(ブカ)、
華美園(カビエン)、乳愛留蘭童(ニューアイルランド)、仙乗寺岬(セントジョージ岬)、防厳美留(ボーゲンビル)、部員、武允、武殷(いずれもブイン)、羅江(ラエ)、武奈(ブナ)、婆抜、晩愚奴(いずれもバングヌ)、学界、岳海(いずれもガッカイ)、羅美(ラビ)、猪威勢留(チョイセル)、部良良部良(ベララベラ)、古倫晩柄(コロンバンガラ)、乳情事屋、入城寺屋(ニュージョージヤ)、、伊佐辺留(イサベル)、俄儀(ガギ)、和義奈(ワギナ)、毛野(モノ)、都楽(トラック)、寝損岬(ネルソン岬)、漏須美(モレスビー)、我足可也(ガダルカナル)、・・・・・・といった具合。

 個人的には、乳振点、乳愛留蘭童、というのが好きだ(好き嫌い
の問題じゃないか)。

 その他、あちこちに狂歌や川柳が見られ、当時の雰囲気がうかが
える。

 元旦や 宿舎の庭に 蝉が鳴き
 元旦や 暁破る 弾丸の音
 元旦や 敵まで呉れる 落しだま


 ・・・これは、73年前の正月、昭和18年1月1日、
ラバウル基地が敵ボーイングB-17編隊の空襲を受けた時のもの。

 この日、我が零戦隊はこれを邀撃、一機に有効弾を与えた。
 司令部の敵信傍受によると、このB-17は、その後エンジン3基が停止したとの交信を最後に消息を絶ったそうだ。

 そこで1月3日の日記に書かれている、三和義勇大佐作の狂歌。

 落し弾 落したはづみに落されて ヘルプヘルプと泣く暴淫具(
ボーイング) 

 ・・・暴淫具、というのがなにやらネイビーらしくていい。

 1月9日にはエモ湾の敵輸送船団攻撃があったが、やはり三和大
佐作の狂歌。

 エモの海 無難とばかり 思ひしに など弾丸などの おちさわ
ぐらむ

 ・・・これは、有名な明治天皇御製、「四方の海 皆はらからと
 思う世に など波風の 立ち騒ぐらむ」のパロディ。

 まだこの頃には多少余裕があったのか、なんだか風流な匂いがす
る。


  
 (昭和18年7月、解隊される五八二空戦闘機隊の集合写真より抜粋。中列右から、司令山本大佐、飛行隊長進藤三郎少佐、分隊長鈴木宇三郎中尉。)


 ただ、前半は笑いあり、涙ありの人情時代劇の趣があるこの日記
も、最後は否応なしに特攻に集約されていく、悲劇の幕切れとなる
 搭乗員はもちろん、従兵や看護婦まで、世話になった人、一人一人の氏名本籍、感謝の気持ちを書き留めていて、部下を思う気持ちなど、読んでいてジーンとくることもしばしばである。



Viewing all articles
Browse latest Browse all 298

Trending Articles